今回の県大会で専門家講評をしていただいた井上知也さんから
各校別短評と総評をいただきましたので掲載します。
『★高校演劇コンクール愛知県大会総評
お疲れ様でした。
途中で会場が替わるなど前代未聞の大会でしたが、振り回された高校生の皆さん、悩み走り回った運営の先生方、本当にご苦労様でした。
悲しかったのは他の高校の公演を生徒さん館が観劇できなかったことです。
自分達の審査も大事ですが他校の作品を観ることが高校演劇コンクールのとても大切な目的だと思えるからです。
途中からは生徒講評委員たちの観劇もできなくなり先生方と我々専門家助言者、一部の保護者のみの観劇となりました。
それでも上演できるだけでも嬉しいという気持ちは痛いほどわかります。
そういう熱のこもった力作揃いでした。
今回の愛知県大会はシンプルで小粒な美術が多かったように思います。
シンプルであればあるほどセンスが問われます。
素舞台でも良いのです。
素舞台にする理由、素舞台を使う工夫。
様々な形の舞台を創り、遊び、楽しむ貴方たちであってください。
舞台はキャストとスタッフ、そして観客が揃って初めて成立する芸術だと僕は思っています。
「人に観せる」という意識の強さによって作品の質が変わってくるひとつの要因になると思います。
演技にも転換などのスタッフワークにも関わってくると思います。
★「各校別ひと言」
主に舞台美術、スタッフワークについて言わせていただきました。
思い違いや考え足らずなところも多々あると思いますがご容赦ください。
椙山女学園高校「G線上のエリア」
シンプルな舞台(扉と椅子だけ)、全て違う椅子、幕が開いたとき何が起こるんだろうとワクワクしました。
ただ 何故扉なのか?椅子が違う理由は?
全部説明する必要はありませんが、もう少しヒントが欲しかったです。
ウルトラマンやバルタン星人、ナウシカや神田川などは僕(の世代)には面白かったです。
誠信高校「ハンナのかばん」
転換のないひとつの舞台で様々な場所に見える装置が素敵でした。
照明によって立体的に浮かび上がる鉄条網とレンガの壁が圧巻です。
レンガの壁のリアル感と前方にある箱のベタ塗りな感じが逆に場の違いを強調しているようで面白かったのですが、真っ白い箱だけが違和感というか悪目立ちしているようで、特に意味がなければ色は押さえた方が良いと思いました。
豊野高校「Take Me Deeper!!」
天秤がしっかり作ってありました。
時々傾きが左右で合わないことがあったのでそこは厳しく徹底すべきだと思いました。
仕掛けは100%成功しなければ意味がない というのが僕の持論です。
照明の切り替わりがはっきりしていて面白かったです。
聖霊高校「星が海に満ちる時~銀河鉄道幻想紀行~」
美しい舞台でした。
転換が暗転でなく目潰しの明かり(銀河鉄道の窓の明かり?)での魅せる転換が見事でした。
観せ方を知ってると思いました。
水面の明かりと踏み出した水音も合っていたし夜明けの美しさは圧巻でした。
初めの袖からのコロガシは光源が見えない方が良かったかな。
名古屋西高校「サブマリンガールZ」
台組、壁、階段の全てが白い装置で綺麗でした。
花道のコロガシからの明かりで装置に影が映って効果的だったと思います。
後から出てきた白い椅子も装置に合っていました。
藤ノ花女子高校「Tomorrow is another day」
シンプルで美しいスタイリッシュな装置でした。
あの白い枠のパネル?はいろいろな形にできてあそべそうなので惜しいなと思いました。
転換の仕方が中途半端に感じました。
全体に音が大きくて、台詞とのバランスがとれたら良いですね。
照明スタンド切り替わりが雑だと思いました。
でもできた明かりは綺麗でした。
マスクを取るとやっぱり見やすいし聞きやすい。
ただ「今」を描くのならマスクの使い方は考えるべきだと思います。(高校生は着けてるとか、お婆さんたちも最後に高校生たちを迎える時だけは着けるとか)
大同大大同高校「アキラ君は老け顔」
抽象的な舞台でしっかり場面が構成されていました。
ただ、それぞれの場所の役割がけっこう限定されているのでもう少し具象的な部分があっても良かったかと思いました。
転換の時、しっかり見えているのでちゃんと役として(例えばお客として来ている人がお茶のお盆は持ってこないとか)動いた方が良いと思います。
役者一人一人がとても自然で、変な奴らばかりなのに違和感なく入り込めました。
鶴城丘高校「ひまわり」
机と椅子があれば教室とわかるわけですが、出入りの位置、導線等はより正確に表現しないと全てが嘘っぽくなってしまうので注意しましょう。
小道具も諸々無対象なのは良いとしても本物を使う以上にそれなりに見えるようにしないと失敗します。
ベンチの転換は黒い衣装の子がやった方が良かったと思います。
尾北高校「話半分」
しっかり高台と階段が作ってあるのですが、それが演技を狭めているような気がしました。
高台の下の扉も面白いと思いましたが全体に生かされていたか。
もっと台上の間口を広くして、階段も登れれば良い程度のモノでも良かったかもしれません。難しいテーマですが正面から取り組んだ姿勢は素敵でした。
愛知高校「牡丹燈籠」
シンプルで半分具象的な舞台が綺麗でした。
ただ中心になる場面が上手に集中していて惜しいなと思いました。
灯籠の進む道筋か重視したように思いますが、芯になる場所を中心にしてその周りを歩いて行くのでも良かったかもしれません。
場所の変化に何かしらのアイテムが欲しかったです。
死んだときの転換は消し幕かパネルを出して、去るのを見えなくしたいですね。
岡崎学園高校「リーちゃん三世」
広い部屋にポツンと居る感覚は面白いと思いました。でもこの作品の場合、
コロスはというか役者はずっと舞台に居続けていた方が良いし、小道具も全部見せっぱなしで移動した方が良いと思います。
暗転も要らないし。
「マスク」を「今」どう扱うか、今しか出来ないことなので、もっと突っ込んで考えて欲しかったです。
常滑高校「笑ってよゲロ子ちゃん」
まずゲロ子ちゃんの被り物の転換は質の高さに感嘆しました。
10年以上前初演を観た身としては興味深々でしたが、貴方たちなりの「今」が、「今」これをやることの意味が感じられたらもっと良かったと思います。
一宮高校「こんばんは、太陽」
シルエットとしてとても美しい装置でした。
祭事としての装置なのでシンメトリーなのは仕方がないのですが、自分の好みとしてはその場面に応じてどこか崩した部分があっても良かったかと思いました。
日本福祉大学付属高校「答辞」
舞台を舞台として使う事がとても面白かったです。
ただ会館は幕が黒いので(学校の講堂とかだとエンジ幕とか紺色の幕とか)若干重めに感じてしまって、大黒を開けてホリにしても(明かりは入れなくても)良かったかと思いました。
惜しむらくはピアノの演奏が生だったら最高でしたね。役者はその役になるために身につけるべきものは身に付けて欲しい。
それが自分の財産にもなります。
と無責任に思ってしまいました。
名古屋南高校「追憶のステラ」
積み木のような可愛い綺麗な装置でした。
吊ってある星もそれ自体と照明によって映る影が一体となってより多くの星々に見えました。
お話としてはかなり都合の良い展開に感じてしまって、自分たち自身の「25歳」を考えて欲しかったです。
刈谷東高校「笑ってよゲロ子ちゃん 純情編~高校演劇バージョン~」
高校演劇での初演を観て、今回常滑高校?上演を観た身としては興味深々でした。
元の「ゲロ子ちゃん」を観ていない人に面白さが伝わるかは疑問ではあります。
二人芝居でキャラクターが融合して、ソーシャルディスタンス?で向き合うことなく離れたまま読み合わせ稽古のテイで進んで行く形は面白いと思いました。
ただどこかで稽古だとばらしてくれないと観てる方はモヤモヤしたままな気がします。
例えば鹿目さんの意見を借りれば、はじめは客電 地明かりのままで、段々照明や音響がプラスされていけばその面白さが伝わるような気がします。
桜丘高校「ラストパス」
ライブ感溢れた力強い舞台でした。
バスケもボッチャもかなりの練習量だったと思います。
役者の底力を見ました。
バスケのゴールとボッチャのコートの融合も、展開のスピード感を後押ししていました。
照明も夕陽のホリの色が美しかった。
本編とは関係ありませんが、開場中に舞台上(ドン中)でかなりの話し声が聞こえました。
少なくとも1ベル後はお客さんがいるということを意識してください。
旭丘高校「水面の月」
厚さ(透過率?)の違う白い布が吊るされ、後ろを通ると透けたり透けなかったりする効果はアイデアだと思いました。
いーぜる乗った台はイーゼルの有る無しで彼の部屋だとわかるので無くても良いかと。
その方が転換などはスムーズにいくと思います。
会場が変わった事で吊り物の仕掛けも大変だったと思いますがクラゲは綺麗でした。
照明の点き方、きっかけ、映像の使い方などは再考する必要があると思います。
愛知芸術高等学校専修学校「臥薪 SHOW 誕!-REVENGE-」
完全な素舞台で中割幕の開け閉めでホリに映像文字を映すという役者の見せ場満載の作品でした。
コロナ禍での戦いを真正面から取り組んだ作品でもあります。
ただやはり「今」を扱うのであれば、マスクやソーシャルディスタンスの使い方はもっと考えなくてはいけない、避けられない問題だと思います。
★最後にいつも言う言葉ですが、貴方たちが将来舞台を演劇を創る立場になってくれたらとても嬉しい。
一緒に創る仲間になってくれたらもっと嬉しい。
でもたとえそうなれなくても、どうか良い観客でいてください。
舞台を演劇を支える人でいて欲しいと願っています。 』
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