今回の県大会で専門家講評をしていただいた役者の川上珠来さんから
各校別短評と総評をいただきましたので掲載します。
『G線上のエリア』椙山女学園 高校
スマホが主流になっているSNSが当たり前の時代にこの台本を選んだ理由が気になりました。他人の家に土足で踏み込む人たち。関わり方として主人公が追い込まれているように見えづらく、何によって最終的に靴を脱がせるまでに行動を変化させたのか説得力がないように見受けられたので、役者全員の演技に体重が乗ると良いと思いました。
冒頭のダンスは人物紹介でしょうか。管理人とは?いなくなってよかったとは?少年の存在は?謎が残ってしまいました。
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『ハンナのかばん』誠信 高校
チームワーク、キャストのバランスがとっても良く、歌もとっても素敵でした。地下でのかくれんぼ、音響が止まった瞬間の不穏な空気。舞台はチェコのスロバキア、ナチスによる人種差別という題材だが恐怖を無闇にあおるわけではない演出。一つ一つのシーンで何を見せたいのかがハッキリしていて転換中もシーンが進んでいたことが良かったです。ハンナというひとりの女の子がいたという物語。思いは時を超えて受け継がれました。
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『Take Me Deeper!!!』豊野 高校
小道具や舞台セットが良かったです。始まりはわくわくしましたが、場面転換が遅く間延びしてしまった印象。
出演者が多かったのですが人数分のパワーとエネルギーを感じられませんでした。あの場合声をパキッとそろえた方がかっこいいと思います。
ストロークが長くて場がもたず、何を見たらいいのかわからなくなってしまう時間がありましたがそこに意図があったのか気になります。テンポ良くシーンごとにメリハリを効かせられたら良かったと思います。
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『星が海に満ちる時-銀河鉄道幻想紀行-』聖霊 高校
全体を通して母のお腹の中にいるような心地よさを感じられました。スタッフワークが見事でとても美しかったです。素晴らしく心地よい反面、役者の演技は単調であるとも感じられたので、登場人物によって差をつける工夫をすると良いと思いました。
駅長さんの台詞に引用の言葉が多々ありました。物語は素敵だったので、台詞に引用を用いる場合は誰の言葉であるのかリスペクトが必要ではないでしょうか。
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『サブマリンガールZ 』名古屋西 高校
音響のタイミングや選曲が良かったです。
声を張り上げてしまうと高くなってしまうため何を言っているのかが聞き取りづらい部分がありました。それはマスクのせいかもしれません。マスクに負けないくらい元気いっぱいで素敵でした。ですが、型にはまっている感も否めなく、誰に投げかけている台詞なのかがわかりづらかったです。
全体的に早いテンポの一本調子に感じてしまうため、小早川教授のシーンはいい意味で崩されて面白かったです。
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『Tomorrow is another day.』藤ノ花女子 高校
ナマモノ、LIVE感をとても感じました。
老人と高校生の2役やっているとは思えないテンポの良さでした。声がハッキリと聞き取りやすく、小気味良くオンオフを分けられる技術もありました。
マスクの使い方に工夫があると尚良いと思いましたが、ワクチンを打った老人たちがマスクをしていないのはあえてなのでしょうか。
舞台セットはシンプルで美しいと思いました。象の骨を模しているようにも見えます。
キーワードになる「象」についてのつながりをもう少し理解したいと思いました。
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『アキラ君は老け顔』大同大大同 高校
それぞれ偏見だらけの言葉。だれかの台詞に共感する人もいれば傷つく人もいるでしょうが、相手の台詞を拾うところ、聞き流すところがおのおのハッキリしていて、気がついたら会話を楽しんでおり、その可笑しさが愛おしくなっていき「人間だなあ」と、メモを忘れるほど魅入ってしまいました。
チームワークや空気の作り方がとても巧みでした。
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『青いひまわり』鶴城丘 高校
少女漫画のような世界でした。台詞回しや動きがゆっくりで、勢いが出てもすぐに役者本人の素に戻ってしまうのが勿体なかったです。マイムの時だけ早くなるのも気になりました。舞台セットの扉があまり使用されず、半開きになっている様子には粗が見えてしまいました。
ラストの花火の使い方はとてもかっこよかったです。
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『話半分』尾北 高校
電話交換手の仕事は「繋ぐ」こと。
聞こうとしない人たちによって“ない”ことにされている他者の思い。
それらを繋ぐことによって、自らの話はしてはいけない電話交換手のミドリ自身の思いがどう浮き上がるのか。そのためには、シゲルが何を伝えたかったのかが明確にわかる必要があると思いました。戯曲の潤色の問題でしょうか。皆さんの熱演で電話交換手という仕事を知ることができ、当時の日常というものを私に繋げていただきました。
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『牡丹灯籠』愛知 高校
和装とても綺麗でした。生徒さんたちで着付けられたのでしょうか。声の響きも素敵でした。有名な落語ではありますが、焦がれしんだお露さんに透明感があり、印象が変わりました。新三郎の薄情さにあきらめて本当に去ったのかと思い、その切なさに泣きそうになりましたが…やはり怪談噺でした。落ちへの展開に違和感があるのは、脚色の問題なのか。執着心というより純粋に新三郎を思い続けるように見えるお露さんが際立っていたからなのか。伴蔵・お峰夫婦のシーンは人間味あり面白かったです。
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『リーちゃん三世』岡崎学園 高校
母娘の呪縛の話と見受けましたが、話が散らかっている印象となってしまいました。なぜその戯曲を選ぶのか、何を伝えたいのか、そのためにどこを切り取るのか。全体的にテンポが単調で変化がなく、台詞の表面的な部分だけで演じている印象でした。刺激的な言葉や表現だけが浮いていたため、その刺激の奥には何があるのか想像して欲しいです。台詞や物語自体は響くものがあったため、勿体なく感じてしまいました。
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『笑ってよ ゲロ子ちゃん』常滑 高校
劇中にハプニングが多々あったと思いますが、その時いかに役の上で対処するかは難題ですよね。ぎんじとたま子の関係性、ぎんじはたま子のことをどう思っているのかが見えづらかったです。
ゲロ子を信じると言いつつ、椅子を振り上げた自身の行動の矛盾。たま子からの思わぬプレゼントに拍子抜けすることを活かして、無理して椅子をキープしなくても良かったのではと思います。
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『こんばんは、太陽』一宮 高校
タイトルからは「天変地異」「どっちつかず」という言葉が連想され、物語では「うそつき」というワードが印象的でした。
舞台セットが民族楽器のようで愉快でしたが、真ん中のスロープが危険に見えました。祭のシーンはたくさん練習したことになっているので、高さのある舞台で演じるなら儀式を記号的に行うのもアリだと思いました。
度々、ガウルフの腕の黒い印が見えてしまっていたので衣装の工夫も必要だと思いました。禍がある時、人は何かのせいにしたくなる。差別や悪に理由はないという恐ろしさを感じました。登場人物たちが安直過ぎるのでは…。その報いがオオカミなのでしょうか。
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『答辞』日本福祉大学付属 高校
舞台を本物の卒業式のセットで行うことにより会話を覗き見している感覚になり、舞台には登場しないマー君を介して生徒会長と彼女さん二人の関係性や人物像が浮き彫りになっていきました。話しかけられた生徒会長がなぜぎこちなかったのか。なぜ答辞の練習をしていたのか。「旅立ちの日に」の二人の合唱からグッと世界に入り込みました。他の役者さんも含めてチームワークがいいなあと感じました。実際にはどんな答辞を読むかはわからない。描かれてはいない”いままで”と”これから“の人生に思いを馳せることができ、いち観客として感動しました。
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『追憶のステラ』名古屋南 高校
舞台セットが可愛くて星も綺麗だったため、「争いは正義と正義」「テロリストは善か悪か」これらの質問を保育園児が投げかけるところに違和感がありました。違和感は笑いにも繋がる場合もあるのですごく危ないです。
創作ということですが、とにかくストーリーの粗が目立ち、主人公の夢物語のようになってしまいました。
発語については、母音の「あ」が「は」に聞こえてしまうことが多々あり、クセかと思われるので意識してみてください。
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『笑ってよ ゲロ子ちゃん 殉情編』刈谷東 高校
舞台セットや戯曲は面白いのですが、リーディングであるため、動きや小道具が気になりました。立ち姿、本を見るタイミング、演技するのかしないのか。練られているように見受けられず、初見読みを見ているようでした。それが狙いだったらわかりやすいように演出がついていると良いなあと。
唯一のリーディングで、コロナ禍での演劇に挑戦的でした。
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『ラスト・パス』桜丘 高校
ライブ感満載で魅せ方がとても巧みでした。
本物のボールを使っての圧巻のパス。
いちまるくんへのボッチャの勧誘は強制ではなくきっかけを与えただけという点がよかったです。ラストのボッチャの大会があっさりと終わってしまったので、戦略がわかりやすくなると一緒にドキドキできたと思います。
「障がい者も健常者も自由と不自由があることには変わりはない」という香取君の台詞が隔てなく、響きました。
夢を叶えられなくなってしまった者の絶望と人の夢を奪ってしまった者の苦悩。
夢を失くして絶望しても新たな夢を見つけたこと。そしてそれが叶うかもしれない未来をみせてくれました。
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『水面の月』旭丘 高校
始まり方が美しく、衣装や舞台の布がとても綺麗で可愛かったです。
「帯」「世界線」「生まれ変わり」「ミズクラゲ」「真珠」興味深い内容ですが、転換に暗転を多用していたためストーリーの繋がりが毎回切れてしまいました。効果的にプロジェクターを使用したら転換も見せることができそうです。
今を生きているリアルな苦悩を感じました。
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『臥薪 SHOW 誕!-REVENGE-』愛知芸術高等専修学校 高校
素舞台。随所でとても面白いシーンあり、見所はたくさんありましたが、マスクの扱い方については気になりました。稽古中につけて日常で外すのはコロナ禍を描いている舞台ではリアルではないと思いました。
「距離を取り、マスクを使用し、前を向く」という新しい演劇のルール。変わりゆく情勢の中、変わらずに受け継ぎたいものの葛藤。
このコロナ禍に向き合って”打開策“を考えるという話は好感を持ちました。
活躍されていた部長さんは”劇中劇””モノローグ“”演劇部“3パターンと見せ所があるのでひとつひとつの演技を変える意識を持つと尚良いと思います。
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【生徒さんへメッセージ】
技術はもちろん必要な要素のひとつですが、物語や台詞のどこに面白さを見出だすのかもとっても大切で、それが戯曲を読むということだと思っています。
自分の着眼点で相手に影響を与える。会話をする。なぜあなたはそこに立つのか。どんな状態でいるのか。台本には書いていない空白の部分を想像すること。そして自らの台詞がない時間に演じることをやめないこと。その場で起こることや誰かの言葉の影響も受けて、舞台の上で呼吸を忘れないこと。
ひとりよがりにならず、皆でつくりあげる喜びを感じて欲しいと思います。
ここで言う“皆”には観客も含まれます。
100人いれば100人の受け取り方があり、正解がない演劇だからこそ、取扱は難しいです。
対等に問題提議を繰り返し、チームで共通の完成形イメージができるところまで積み重ねる。
稽古ではたくさん失敗するかもしれませんがそれは恥ずかしいことではなく素晴らしいチャンスです。
その経験が必ず舞台に現れます。
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【さいごに】
このコロナ禍で最後まで上演できたこと、本当にお疲れ様でした。
マスク・フェイスシールド着用の舞台、急なスケジュールや会場の変更、悔しい思いもあると思います。
私自身このコロナ禍で打ちひしがれている2年間でした。今後どのように演劇を続けていけるのか模索しています。
いつかどこかでお会いできることを楽しみにしながら精進して参ります。
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川上珠来(かわかみみく)
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